「そろそろ、RDBでは限界かもしれない。」
複雑なJOINが増えてきたとき、あるいはビジネスロジックが関係性に依存していると気づいたとき、現場担当者の方なら一度はこう思ったことがあるのではないでしょうか。
昨今、RDBの次の選択肢として選ばれ始めているのがグラフデータベースです。
グラフデータベースは、ノード(点)とエッジ(線)によってデータを構造化し、「誰が誰とつながっているか」「どの情報同士がどう影響しているか」といった関係性そのものをデータ構造として扱うことができるデータベースです。
従来のように正規化されたテーブル同士をJOINして組み立てるのではなく、「つながっていること」を前提にしたデータ設計が可能になる。
ここが最大の転換点であり、現場担当者が「グラフ」を検討すべき理由でもあります。
なぜ今、グラフデータベースなのか?
いくつか背景はありますが、主な理由は2つです。
- データ構造の複雑化
- AIとの連携
データ構造の複雑化
私たちが日々触れるデータは、もはや縦×横だけでは表現しきれない時代に突入しています。
SNSの友達関係、レコメンドの履歴ベースモデル、業務システムのマスタ間連携、知識グラフ、サプライチェーン分析、セキュリティログ、人物相関。どれを取っても、データは直線的ではなく「ネットワーク構造」をしている。
そして、こうしたつながりをネイティブに表現し、検索し、活用できるのがグラフデータベースの強みです。
AIとの連携
最近では生成AIやRAG(検索拡張生成)とグラフデータベースの親和性も注目されており、構造化された知識ベースを元に、高精度な回答や推論を行うユースケースが急増中です。
実際、GoogleやFacebook、Amazonなどの大手もすでに内部的にグラフ構造を活用しており、知識の構造化・関係の可視化はエンタープライズにとって重要な競争優位になりつつあります。
そこで、本記事ではグラフデータベースとRDBは何が違うの?と現場担当者が感じているところから、グラフデータベース主要4製品の特徴を解説します。
以下に1つでも当てはまるなら、この記事が役立つはずです。
- 複雑なJOINが当たり前のようになっていて、RDBがスパゲッティ化している
- RDBでモデルを作ったものの、あとから関係性を柔軟に追加できない
- Neo4j、TigerGraph、Amazon Neptune、名前は聞いたけど手を出せずにいる
補足しておくと、私たちはリレーショナルデータベースを否定するつもりは一切ありません。
むしろ、RDBが最適なユースケースは今後も無数に存在します。
ただ、それだけでは足りない場面が確実に増えている。
もし貴社のシステムやプロジェクトの中で「構造が複雑すぎる」と感じているなら、それはグラフデータベースを学ぶ最良のタイミングかもしれません。
なお、私たちAerospikeはPayPalをはじめとする世界のエンタープライズカンパニーにグラフデータベースとNoSQLを統合したマルチモデルデータベースを提供しています。
RDBの課題整理から、PoC支援、導入構成のご提案まで、実務に即したグラフ導入の伴走支援を行っています。
グラフデータベースの基本構造とRDBとの違い
「グラフデータベース」という言葉を聞いたとき、多くの担当者が最初に感じるのは、「リレーショナルと何が違うの?」という疑問です。
データベースといえば、行と列、テーブルと正規化。それが当然の前提として身についているからこそ、グラフ的な発想は、一見すると少し異質に見えるかもしれません。
けれど、ここを乗り越えると、RDBではどうしても扱いにくかったつながりや構造の可視化が驚くほどシンプルになります。
グラフデータベースの「構造」とは
グラフデータベースは、「ノード」と「エッジ」という2つの要素で構成されています。
ノードは、実世界の「モノ」や「人」、「場所」、「出来事」などを表します。
たとえば「ユーザー」や「商品」、「ページ」などがこれに該当します。
一方、エッジはノード同士の関係性を表し、「購入した」「閲覧した」「友達である」「参加している」といったつながりを明示的に表現します。
この構造の最大の特徴は、関係そのものがデータベースの一部として最初から存在していることです。これは、リレーショナルデータベースの世界では中間テーブルなどで間接的に表現していたものが、最初から直通の線として存在する、という感覚に近いでしょう。
リレーショナルデータベースとの発想の違い
リレーショナルデータベースでは、基本的にデータはテーブルに格納され、それぞれのエンティティ(ユーザー、商品など)は独立したテーブルとして管理されます。
そして関係性は、「外部キー」や「中間テーブル」を介して表現されます。
一方、グラフデータベースでは、そうした関係性が最初から構造の中にあります。
つまり、「このユーザーがこの商品を購入した」「この人がこの人と友達である」という関係性が、データの周辺情報ではなく、中心的な構造要素としてデータモデルに組み込まれているのです。
この発想の違いは、実際にシステムを設計したり、クエリを書いたりするときに大きな影響を及ぼします。
JOINが当たり前になっている構造は、本当に最適か?
たとえば、「ユーザーが購入した商品をレビューして、それを見た他のユーザーが似た商品をおすすめしている」といったシナリオを考えてみてください。
リレーショナルでこれを表現しようとすれば、ユーザーテーブル、商品テーブル、購入テーブル、レビュー、推薦、友人関係…といった複数のテーブルをまたいで結合する必要があります。
こうした構造は、RDBでも構築は可能です。
しかし、関係が深く、複雑になっていくにつれて、JOINの数は増え、クエリは冗長化し、パフォーマンスにも影響が出やすくなります。
さらに、設計そのものも直感的とは言いがたい複雑なものになりがちです。
グラフデータベースでは、このような「つながりが命」のデータ構造を、より自然な形でモデル化できます。
ノードとエッジというシンプルな構造を積み重ねることで、関係性の階層やネットワーク構造を、そのまま表現できるのです。
データモデルの「可視化」と「拡張性」が変わる
リレーショナルデータベースの構造を図解しようとすると、ER図やリレーション図になります。
これはこれで視認性がありますが、関係が多くなってくると図が煩雑になり、どこがどうつながっているのか把握しづらくなります。
一方、グラフデータベースでは、ノードが点、エッジが線としてそのまま描画されるため、データの関係性が直感的に「見える」ようになります。
たとえば「ある社員が持っているスキルと、そのスキルが必要なプロジェクト」「そのプロジェクトに参加している他の社員」などを視覚的に確認することが可能です。
また、グラフ構造の優れている点として、「あとから関係性を自由に追加しやすい」という柔軟性があります。
リレーショナルでは、新しい関係性を追加しようとすると、新たなテーブルや外部キー、参照制約の設計が必要になりますが、グラフでは既存のノード同士を新しいエッジでつなぐだけです。
モデルの拡張に対する心理的ハードルが格段に下がります。
「これはグラフで組むべき」典型パターンとは?
では、すべてのシステムをグラフデータベースで構築すべきかというと、当然そんなことはありません。日々の取引データを扱う会計システムや、行ベースで高速に読み書きするトランザクション処理は、RDBのほうが得意です。
ただし、以下のようなケースにおいては、グラフデータベースが本領を発揮します。
- SNSやチャットアプリなど、ユーザー間の関係性が重要な場面
- 行動履歴やレコメンドに基づく複雑な「関連性」の可視化
- 知識をネットワーク構造でつなぐナレッジグラフ
- 商品・工程・部品などの構成管理、依存関係の追跡
- 詐欺検知や異常検出など、パターン探索に強い業務ロジック
このようなシーンでは、リレーショナルではどうしても無理が出る構造を、グラフデータベースなら自然な形で設計・クエリ・可視化できるのです。
設計思想が変わると、見える世界も変わる
グラフデータベースの学習を始めた現場担当者が最初に感じるのは、「正規化」や「中間テーブル」の発想から抜け出す違和感です。
しかし、これは単なる慣れの問題です。むしろ、今まで構造化しにくかったデータを無理やりテーブルに押し込めていたことに気づいたとき、その違和感は「解放感」に変わっていきます。
RDBでは、関係性はつなげてから考えるものでした。
グラフデータベースでは、関係性を前提に設計していきます。
グラフデータベースとAIの融合──RAG・ナレッジグラフにおけるユースケースと技術的可能性
AIの進化とともに、グラフデータベースは「構造を支えるための技術」から、「知能を拡張するための基盤」へと位置づけを変えつつあります。
その象徴的な活用領域が、「ナレッジグラフ」と「RAG」です。
従来、グラフデータベースはつながりの可視化や探索効率の向上といった目的で用いられてきましたが、今では「知識の文脈化」や「説明可能なAI」の構築」に欠かせない要素として脚光を浴びています。
ナレッジグラフとはなにか?──情報の意味を構造化する技術
ナレッジグラフとは、「意味のある情報同士のつながりを、グラフ構造で表現した知識ベース」のことです。
たとえば、「東京は日本の首都である」「東京には渋谷がある」「渋谷は若者に人気のエリアである」といった知識を、「都市」「地名」「特性」といった概念をノードとし、「〜に含まれる」「〜が特徴」といった関係をエッジで表現します。
このような構造にすることで、単なるテキストの羅列では捉えられなかった意味のネットワークを、機械が解釈・推論しやすい形に変換することができます。
ナレッジグラフのメリットは、以下のような点にあります。
- 情報の信頼性や出典を構造として保持できる
- 意味的に近い情報を、距離や関係性で探索できる
- 検索エンジンやFAQの文脈理解に利用できる
- 複数情報源を一貫性のある構造で統合できる
これらは、AIに意味や背景を与えるうえで非常に重要な機能であり、単体のLLMではカバーしきれない領域を補う役割を果たしています。
RAG(検索拡張生成)との親和性
RAGとは、「生成AI(GPTなど)に、外部の知識ベースからの検索結果を加味して回答させる仕組み」です。
大まかに分けると以下の2つのコンポーネントで構成されます:
- 検索パート(Retriever):ユーザーの問いに対して、適切な情報を知識ベースから引き出す
- 生成パート(Generator):検索結果をもとに、自然な文章で応答を生成する
ここで、グラフデータベースは「Retriever」の部分で強力な武器になります。
従来、検索ベースは全文検索(ElasticSearchなど)やベクトル検索(Faissなど)を用いることが一般的でしたが、グラフ構造を併用することで以下のような高度な探索が可能になります。
グラフデータベースによるRAGの強化ポイント
1. 文脈を意味的構造でたどれる
単なるキーワード一致や類似度検索ではなく、「この文書は〇〇に関する内容であり、△△とも関係している」といった意味のネットワークに沿った検索ができる。
これにより、LLMが答えるべき範囲をより精密にコントロールできます。
2. 複数の情報源を統合的に扱える
たとえば社内のFAQ、製品マニュアル、API仕様書、顧客とのやり取りなど、バラバラなデータソースをノードとエッジで一元化。
異なる形式の情報でも、関係性という共通言語で整理・検索できます。
3. 根拠情報をトレースできる(Explainability)
生成された回答に対して、「どのノード(=情報)を参照して出力したのか?」という出典の可視化が可能になります。
これにより、AIがなぜその答えを出したのかを人間が確認できる、説明可能なAIを実現できます。
実際に活用されているユースケース
すでにグラフデータベース×AIは、さまざまな分野で活用され始めています。以下に代表的なものを紹介します。
◯ 企業向けドキュメント検索AI(社内ナレッジRAG)
- グラフ構造でFAQや技術資料、業務ナレッジを統合
- 問い合わせチャットボットや社内AIアシスタントが、文脈に沿って適切な回答を提示
- 出典付きで根拠を示すため、現場でも安心して活用できる
◯ 製薬・医療系の論文情報整理
- 論文同士の引用・用語・疾患・薬品をグラフ化し、文脈探索を容易に
- 医師や研究者が質問を投げると、関連文献や図表まで引っ張ってくるAIインターフェースに活用
◯ セキュリティログやインシデントの相関分析
- 攻撃者のIP、手法、対象ホストの関係性をグラフで管理し、疑わしいパターンをLLMに説明させる
- 異常検知+文脈生成で、アラートの精度と対応スピードを大幅改善
これらはすべて、「構造を持った知識」と「言語生成」を接続するという設計思想のもとに成り立っています。
技術的に押さえておくべきポイント
グラフデータベースとAIをつなぐには、以下のような技術的観点も押さえておく必要があります。
◯ ノード・エッジの設計を生成可能性から逆算する
LLMに情報を与えるとき、「この関係性はどんな言葉で説明されるか?」を意識して設計する必要があります。
たとえば「サポート対象」や「バージョン依存」といった意味づけを、エッジやプロパティとして明示しておくことで、生成精度が向上します。
◯ 検索時のスコアリングと絞り込み戦略
単純なベクトル類似度ではなく、グラフの構造(距離、次数、接続の強さなど)に基づくスコアリングを併用すると、Retrieverの精度が上がります。
◯ セキュリティとガバナンス設計
グラフ構造では情報のつながりが可視化されやすいぶん、アクセス制御や表示範囲の制限が設計上重要です。
ユーザーごとにどのノードを見せるか、どのエッジをたどれるか、といった制約設計が求められます。
グラフRAGについてはこちらでも詳しく解説しています。
主要なグラフデータベース製品の特徴と選び方
では実際にグラフデータベースを選ぶ際にはどんな製品が良いのでしょうか。
グラフデータベースはここ数年で選択肢が急増し、OSSから商用、クラウドマネージド型まで多様な形で提供されています。
どの製品を選ぶかは、プロジェクトの規模、チームのスキル、求められるパフォーマンスやユースケースによって変わります。
ここでは日本市場における代表的なグラフデータベースを4製品紹介しつつ、現場での選定ポイントを解説していきます。
Aerospike Graph
Aerospikeは、キー・バリュー、ドキュメント、そしてグラフといった複数のデータモデルをサポートするマルチモデルのリアルタイムデータベースです。ギガバイトからペタバイト規模のデータセットに対して、非常に低いレイテンシで高いトランザクション処理量を提供します。
- 特徴
- 100%インメモリに依存しない設計で、高速かつスケーラブル
- Cypherベースのクエリサポート(Neo4jユーザーが移行しやすい)
- 巨大なデータセットを低コストで運用できるスケール設計
- 向いているケース
- レイテンシがボトルネックになっているアプリケーション(たとえばリアルタイム広告やセキュリティ)
- グラフでの大量書き込み/高頻度読み出しを両立させたい場面
- 大規模データセットをもとに、RAG構成などの生成AI基盤を構築したい組織
性能面ではトップクラスのポテンシャルを持ちつつ、今後の普及・実績次第で存在感をさらに強めていくと予測されます。
Neo4j:最も普及しているOSS系グラフデータベースの代表格
グラフデータベースの代名詞ともいえる存在で、世界的に最も利用者が多いプロダクトです。
- 特徴
- 独自のクエリ言語「Cypher」を使用。SQLライクで学習コストが低い
- 可視化ツールが充実しており、UIからノードやエッジの構造を直感的に操作できる
- OSS版と有償Enterprise版があり、小規模開発からエンタープライズまで対応
- 向いているケース
- まずはグラフデータベースを触ってみたい個人・小規模チーム
- ユーザーやデータの関係を可視化して価値に変える分析用途
- RDB経験者が初めてCypherを学ぶ入り口としても最適
学習資料も豊富で、日本語の情報も比較的手に入りやすいです。
Amazon Neptune:AWS上で使えるフルマネージド型グラフデータベース
AWSを使っている開発現場であれば、真っ先に検討対象となるのがAmazon Neptune(ネプチューン)です。
- 特徴
- マネージドサービスなので、インフラ構築や運用の手間が少ない
- クエリ言語はCypherだけでなくGremlin、SPARQLにも対応
- AWSの他サービスとの連携が強力(IAM、CloudWatch、S3など)
- 向いているケース
- すでにAWS環境でアプリケーションを構築・運用している
- インフラは任せてアプリケーションロジックに集中したいチーム
- データ量が中〜大規模で、可用性やセキュリティにも配慮したい場合
Neptuneは「AWSネイティブでいけるなら使いやすい」プロダクトです。
逆に言えば、AWSに依存しない設計を目指している場合はやや慎重になるべきでしょう。
TigerGraph:ハイパフォーマンス重視の商用グラフデータベース
大量データのリアルタイム処理や高度なパターンマッチングを求める現場で評価されているのが、TigerGraph(タイガーグラフ)です。
- 特徴
- 並列分散処理に強く、大量データの高速処理が可能
- 独自のクエリ言語「GSQL」を使用
- 多段階のリレーションを一瞬でたどる探索能力が高い
- 向いているケース
- フィンテック、通信、サプライチェーンなど、リアルタイム分析が求められる領域
- 複雑なネットワーク構造を高速に探索したい
- パフォーマンス重視のPoCや商用導入を想定している大規模組織
TigerGraphはPoCから商用レベルへ一気にスケールさせたいというシナリオに強い製品です。
特に、パフォーマンスに対する要求が厳しいプロジェクトでは候補に入れておく価値があります。
4製品の詳しい比較については、こちらの資料(無料)でご覧いただけます。
最後に:グラフとAIの融合、その次のステップへ
グラフデータベースを理解しているということは、単なるデータベースの選択肢をひとつ増やしたという話ではありません。
それは、情報と情報の「つながり」を構造として捉え、活用する視点を手に入れたということです。
この力こそが、AIが進化する中でますます重要になります。
生成モデルのような強力な言語エンジンに、信頼できる文脈を与え、出力の裏側にある「意味のネットワーク」を制御する。
それを可能にするのが、グラフという構造の言語です。
Aerospike Graphは、そうした構造とスケーラビリティを同時に実現するための新しいグラフDBとして、AIとの連携にも強く設計されています。
とくに高速な探索性能と巨大なデータセットへの対応力は、ナレッジグラフやRAG基盤において大きな優位性となります。
生成AIを使うだけでなく、支える側へ。
今後のプロジェクトやアーキテクチャでグラフの活用を検討されている方は、ぜひ一度弊社にお問い合わせください。